ALASKA!(夢の大地、夢の海、夢のキング...アラスカへ)

キング!

準備は前日から万端だったハズ。

なのに…

車のキーがない。
いくら探してもない。

待ち合わせの時間は過ぎる。かれこれ40分以上探している。

...キーがない。

このときほど、自分の情けなさ、運のなさ、注意力のなさを呪ったことはない。
小学生の頃からの夢をようやく叶えようとしたら、たかだか車のキーがないのだ。

吟香にGaryさんに電話してもらう。
もう、キャンセルもやむを得ないか、と思っている。いや、自暴自棄気味になっていた。

...いくら探してもキーはない。

最初、海のラグーンで少し練習を兼ねて竿を振る予定のようなのだけれど、この辺りは干満差が大きく、もと養魚場の囲まれた水域と外海との間の水路で、急激な潮位の変化に伴う激流が生じるようで、この流れを川と勘違いする?とかでサーモンが入ってくるらしい。これを狙うとか。
そうなると潮が終わればここでの練習はできない。

吟香が再び電話したところ、Garyさんとリンダさんは元々友達らしく、Garyさんがホテルまで来てくれているとのこと。
Garyさんに謝って、挨拶。何とも情けない出会いだ。
とりあえず、Garyさんの車に乗せてもらってスピットに向かう。

他にお客さんがいなかったからよかった。
綱渡りだな。

さて、気を取り直す...ふりをしてみる。本当はもうまったくグチャグチャな心境。

吟香はキングサーモンの生態から何から色々話を聞いている。早すぎてほとんど聞き取れない。
僕は吟香から要点を教えてもらう。これも...情けない続きだなぁ。

さて、
タックル。
フライロッドにフライリール。ただしラインはフライラインではなく、ナイロンライン。4号と56号とか、そんな太さだろうか。
何ポンドラインとか言われても、日本の磯釣り師の僕にはよく分からないから、こんな説明で我慢してもらいたい。
大きめのサルカンを挟んで、ハリス?が50センチほど。
大きな針。チヌ針で言ったら、6号とか7号とか?くらいか?形状は丸せいごのような感じ?
至ってシンプル。



これにバブルとGaryさんが呼んでいた着脱可能なプラスチックのまん丸な浮きを付けたりする。直径5センチはありそう。浮力も山盛り。
こんな浮き、恐ろしくてとてもフカセでは使えないな。

ラグーンの中でロッドの振り方などレクチャー受ける。吟香にレクチャーしている間に、勝手にフライキャストのように竿を振っていると、違う、と指摘。
必要なだけ予めラインを引き出したら、あとはブッコミの要領で投げるだけみたい。もちろん、ラインは押さえておかないといけないけれど。

ラグーン内にサーモンの波紋、時折海面が叩かれている。
盛り上がるなぁ。


ラグーン内。左手が防波堤的に伸びていて、途中に流出口がある。

しばしラグーン内で練習したあと、本命のラグーンから外海への流出口に向かう。防波堤を越えて、砂浜に出る。

おお!
たしかに川だ。激流がラグーンから外に迸っている。
その流れの中に軽く立ち込み、流れに餌を落とす。



その餌がまた特殊。といっても、日本人には分かりやすいだろう。
渓流釣りのもっともポピュラーな餌。
そう、イクラだ。キングサーモンのイクラと言っていたような…
そのイクラをGaryさんのノウハウの製法で、房状、というか、小判くらいの大きさに何かで固めてあるような感じ。
これを針に刺したあとで、ハリスを輪っか状にして、餌を縛るようにしている。
なんだか、異次元な感じ。
ハリス部分もメインのラインと同じだろうと思うのだけれど、兎に角太い。だから、ハリスでこんな事が出来るんだろうなぁ。

ともかく、それを振り込む。

渓流でのミャク釣りの要領だろうと思う。つまりナチュラルドリフトさせるのだろう。
しかし、これにはフライロッドは向かない。短いし。

この日はずっとこんな釣りをするのだけれど、これ、絶対磯竿でやった方が楽だろうと思う。
何度、グレ競技SP2 1.75号があったらなぁ、と思ったことか。
もっとも5メートル以上の竿でキングサーモンとやり取りしたら、モーメントを考えたら、結構大変な気はするけど。

なかなか上手く行かないが、ともかく頑張ってみる。うまく流芯に入らないのだ。

吟香もGaryさんに指導してもらいながら、頑張っている。なかなか様になっているな。



吟香はこれが釣りはほぼ初めてと言っていい感じ。以前、ニュージーランドでトラウトをやったときに一緒に行ったけれど、2人で竿を振れるような状況でもなかったので、最初に少しルアーを投げて、あとは寝たり、僕の応援したり、だった。

何かが触っている。
…のだけれど、食い込まない。

しばらくして、ようやく…フィッシュ!
というほどの手応えのないものが掛かった。
名前は不明だが、ダボハゼを巨大化したような魚だ。

流れがコロコロ変わり、気がつくと流心を外している。膝下くらいしかない流れの中を、向こう岸に渡ったりしながら、流心を探る。
例の浮きを付けて流す。

足元、いるんだよな。サーモンが。
掛からないけど。



結局、我々も、また周辺の釣り師にもサーモンは反応せず、水位下がり、流れも弱まった。


夜明け後、干潮ですっかり水位の下がったラグーン。中にキングが泳いでいるのが見える。
これは釣れないらしい。


さて、
いよいよ、本命のリバーだ。

Garyさんの配慮で、通り道にあるホテルに一度戻り、鍵を探すことに。

フィッシングライセンスと昨夜買ったキングサーモンスタンプが車の中なのだ。
練習はともかく、これからキングを釣るなら、やはりキチンとライセンスを持っておくべきだろう。
日本でだって、入漁券は持たずに釣りをして、漁協の人が回ってきたときに。「家にあるから」では通用しないだろう。
鍵がなければ、昨日のスーパーが開くのを待って、再購入するしかない。

しかし、あれだけ探してなかったのだ。
ない訳はない!と思うけれど、でも、無いものは無いのだ。

可能性あるとすれば、まだ暗い中で探した庭だけれど…
這いつくばりそうな勢いで探してみても、やはり無いものは無い。

ダメだ。無いものは無い…のだ。

可能性はゼロと思いつつ、時々信じられないようなところに物を入れてしまう自分を信じられない?ので、
窓際、ベッドと窓の間に開いたままおいてあるスーツケースの中を引っ掻き回す。

ない。

スーツケース内を探すには手元くらいなぁ、と思って、何の気なしにカーテンを開けた。

…ん?

探し物はなんですか〜見つけにくいものですよ〜♫
斉藤由貴の古き歌声が耳に響いた気がした。

なぜ、そこにある...鍵よ。

つまりは、スーツケースから何かを取り出すときに、手に持っていた鍵を窓枠に置いた。

そのとき、カーテンは開いていた。

寝る前、吟香がカーテンを閉めた。
鍵など気にせず。

それが、車の鍵神隠し事件の真相であった。

ああ、疲れた…


Garyさんに報告。心配して出てきてくれたリンダさんもホッとしていた。

気を取り直して、というより心配事がなくなり、気持ちよく目指すニニルチク川へ車を走らせる。ライセンスもキングサーモンスタンプも手元にある。

1時間弱走って、車は少しだけ山手に入る。川がちらりと見えた。かなり細い。日本の渓流ともそれほど違わないくらいだ。
ホーマーへの移動中にみたキーナイ川とはまったく違う。
ちょっと嬉しくなる。
そうそう、こういう川で、他の釣り人は気にせず釣りたかった。良い感じだなぁ。

そう、こんな川をメーター超えのキングが遡上するのだ。わくわくする。

車を停める。
他の釣り師?と思われる車もあるにはあるが、2台程度。日本の渓流だと先行者有利だけれど、遡上するサーモンを釣る場合はどうなのだろう?

準備をして、Garyさんの説明を聞く。
結構お話し好きなので、結構長い。しかも、流暢な英語なので、吟香はともかく、僕は分かる比率が結構少ない。

そうこうしていると、案の定だけれど蚊が...そう、アラス蚊。



来るわ来るわ。
蚊柱が立つような状況ではないけれど、立派な蚊がどんどんやってくる。

防虫スプレーは日本からも持ってきたけれど、素直にGaryさんから現地のスプレーを借りた。なんだか、日本の軟弱な?蚊用のスプレーでは効かないような気がして...

渡されたロッドは海で使っていたものそのまま。
やはりリバーでもフライではなく、エサでやるようだ。まぁ、そのために海で練習したんだけど。
ちょっと、フライでもルアーでもいいから、投げてみたかった気もする。

川に降りる。









さぁ、始めよう。

Garyさんに最初のポイントで指示を受け、まずは僕の方から竿を入れる。
少し上流に吟香が入る。



つまりは、小川で鮒を釣るのと同じ。
対岸の川岸の草の繁み。オーバーハング。倒木の下。この際にナチュラルドリフトで流し込む。



最初の場所ではノーヒット。

川を遡上し、次の釣り場を目指す。



ここがベストポイント、とのこと。

確かに。
対岸には倒木が倒れ込み、適度なストラクチャーを作っている。

僕が上流、吟香が下流に入り、竿を振る。



サーモンが、しかもキングサーモンが釣れる、ということ自体がまだリアルには受け止められていない。
半信半疑という訳ではないが、釣りというのはそういうもの。昨日まで釣れていたけれど...よくある話だ。

が...

「わ!」っという声。
下流を向くと吟香のロッドが弧を描いている。

「キング!」Garyさん。

「わ、凄い。え、え、魚ってこんなに力強いの?」
そんなことを、割と余裕そうに口にしながも、結構真剣な顔で、でも楽しそうにGaryさんの指示通りに竿を操っている。

上流へ、下流へとさほど水深があるわけではない川を縦横にキングが走る。おお!見事な婚姻色のキングサーモンだ。

綱引きしても切れないようなラインでのやり取りなので、ブレークの心配はない。
逆に、磯釣りの基本のようにロッドを立てると竿が負けてしまうようで、竿は立てないように、との指示がGaryさんから飛んでいる。
竿尻をお腹に当てて、竿は斜め前に倒して、魚を暴れさせて疲れさせろ、とのこと。

iphoneを取り出して、吟香のやり取りを動画に撮る。これはいいお土産になりそう。

やりとりは5分以上続いている。寄せた、と思うとまた走る。
跳ねる。水面が爆発している。結構な迫力だ。

腕がぁ~、とかいいながら、結構嬉しそう。

取り込みは...ずっと気になっていたのだけれど、ランディングネットをGaryさんは持っていない。
リリース前提だと確かにネットは使いたくない。魚体を傷める。

どうするのかな?と思ってみていたら、どうにもハンドランディングのようだ。

おお!谷内坊主流取込法か??と期待も高まるが、もちろんそんなわけもなくて、サーモンの尾びれの付け根を握り込むようだ。
しっかり手を冷やして、優しく掴む。

とうとうキングサーモンを釣りあげた...吟香が...



キングサーモン...初対面だ。
12ポンド程度とのこと。

ワイルドのキングサーモンはこの時期はキャッチできない。このため、魚体は自ら上げず、釣り人も手を冷やして魚体に手を添えるだけ。



本当に、キチンとしたルールだ。
日本の似非キャッチアンドリリースとは大違い。見習うなら、格好ではなくて、こういうところを見習ってほしいものだ。

もっとも、僕の基本スタイルはキャッチアンドイートだけどね。

キングは疲れた身体を一度震わせて、ゆっくりと、堂々と泳ぎ去っていった。



さて、ここまで読んだ僕の仲間内は...
このまま終わることを強く願っていると思う。
よくある話だしね。

ビギナーズラックも手伝って、パートナーが釣って、自分が釣れない。そう、傍から見るとこれほど面白いことはない。
僕もそう思う。

いや、正直、最初から僕もそうなりそうな気がしていた。
釣りというのは、あまり思い入れが強すぎると、魚に殺気が伝わるのか、だいたい釣れない。
僕らがチヌなら釣れるのは、一尾一尾の魚にそれほど強烈な渇望を抱いていないからなのかも知れない。
いや、チヌだと、あらかた釣り方が分かっている、というところもあるから、比較にならないかな。

ともかく、そんな嫌な予感を感じつつ、吟香が入るポイントへ僕が代わって立ち込む。
どうも、Garyさんも吟香に釣らせたい、という気持ちが結構強かったようで、立ち込んで見てみると、こちらの釣り座は素晴らしい。



まさに目の前に倒木が横たわっていて...あ、キング!

釣りキチ三平のイトウ釣り編で、巨大イトウが倒木の下にいるのを三平が見つけるシーンがあるが、まさにあんな感じ。
もちろんそれほど巨大ではないけれど、キングが倒木の下で身体を休めている。

見える魚は...ではないが、こいつの前にエサを流しても、反応は引き出せなかった。

彼が姿を消してしばらくして...

グゥン!っとロッドに重量感。

ブゥン!っと指示通りに大きく合わせる。

フィッシュ!と口に出してみる。来た!キングだ!

ラインの先で婚姻色がきらめく。



よっしゃ!

ロッドが短い。いつも磯竿を扱うように右手一本で(磯竿は左で持っているけれど)ロッドを持って、竿尻を腕に当ててやり取りをしていると...
竿尻はお腹に当てろ、とのGaryさんのご指示。

う~む、好きにやりたい...

けれど、確かにこの重量感とこのパワー。片手だけでやり取りしていたら、腕が持たないかも知れない。



魚とやり取りすると、言われたことはすっ飛んで、いつものようにやってしまう。つまり竿を立ててしまう。
また、Garyさんに注意受ける。

さて、ここから先はどちらが正しいのか?Garyさんの言っていることがよく分らなかったので、正しかったか正しくなかったか、よく分らない。

というのが、スズキやブラックバスなど、エラアライやジャンプを繰り返す魚とやり取りする場合、基本的にはこれらをさせないように竿先は抑え込むものだと思っている。
これらはラインが弛んで、フックが外れる要因になるからだ。

だから、僕のやり取りは吟香のやり取りとは違って、結構静か。
走らせはするけれど、できるだけ抑え込んで跳ねさせない。



ふと見ると、僕のロッドに掛かっているキングのすぐ横を別のキングが並走している。なんなんだ、この環境は。

しかし凄いパワー。腕が怠くなってきた。単なる運動不足による筋力低下だけれど。

このやり取りも5分は優に超えていたように思う。

いよいよフィニッシュ。


何度かの寄せのあと、ようやくGaryさんの手にキングの尾が握り込まれた。

釣った...

一つ夢、叶った。

釣りって、本当に面白い。

釣りは、自然から与えてもらえる心の恵みなのかも。ここは人の価値観やしがらみは持ち込んではいけない。
自然に従ったルールを作って、そのなかで生命と駆け引きさせてもらう。
人間に残された(手軽な)唯一のハンティングなのだろう。
だから、そういう狩猟的な本能を満たさせてもらうことが恵みなのだろうな、と。

何も人口構造物が見えず、自分たち以外誰もいないこの環境。

そうそう、このポイントの対岸の木の上からはハクトウワシが川面を見つめていた。



Garyさんの推定で13~14ポンド。先の吟香のキングより少し大きい。





こころの中でお礼をいいながら、泳ぎ去るキングを見送る。


今少し...もう一本...と思ってエサを流す。

実はバイトした。来たのだけれど、すぐに外れてしまった。
アワセが小さい、とGaryさん。

そうなんだよね。
宇和島の掛り釣りでチヌを狙っていたときにもしょっちゅう砂ちゃんに指摘されていた。

磯竿は長いから、これを立てるだけでも大きなアワセになるのだけれど、
掛り竿のような短い竿だと、大きく動かさないとアワセが効かない、と。

フライロッドも同じで、アワセが効いていなかった。長年しみこんだ癖だからなぁ。


Garyさんとは8時間の約束なので、そろそろ時間が迫っている。

どうするか?もう一つ別のポイントに入ってみるか?と聞かれ、頷く。

さらに川沿いを遡上する。

今度は割となだらかな河原。

先のポイントよりかなり流れが速い。



指示受けたとおりに向こう岸の草の繁みの下に流し込む。

・・・あ、キングだ。

対岸少し下流にキングが見える。
しかも、僕のエサに反応している。食い込むまではいかない。

もう一度流し込む。
流れから外れた。

もう一度。

あ!エサが消えた...

まったくバカ。ここでアワセなきゃいけないのに...
エサ釣り、という先入観で、ついつい食い込ませることを考えてしまったのだろう。

それ以降、このキングは反応しなくなった。


・・・と...

吟香がロッドをしならせる。



吟香の方は、アジかイワシか何か分からないけれど、魚の頭を取ったものを塩で締めたものをルアー的に使う釣り方で下流で釣っていた。
これをダウンストリームに投げて、引いてきているのだ。

これにキングが反応した。

そりゃ、この流れだとその方が釣りやすい。もっと俺にも進めてくれよ、Garyさん(笑)

先ほどとは幾分落ち着いて吟香がやり取りする。



ん?これは...婚姻色でない、如何にもキングらしいキングだ。というのも、釣りキチ三平のサーモンダービー編では海でキングを釣っているので、これは銀色だった。
吟香にロッドに掛かっているのは、先のキングより少し小さ目だが、銀色のキングだ。

今度は動画は取らず、バシバシと写真を写す。

激しく暴れるキング。


爆発する水面





5分以上のやり取りでGaryさんの手にキングの尾が収まる。

今度のキングは養殖ふ化のキングだった。
見分け方は、脂びれ(背びれの後ろ側の小さいひれ)の有無だ。養殖放流ものはこのひれが除去されている。



養殖放流といっても、稚魚放流だ。日本の渓流のような成魚放流ではないので、養殖といってもワイルドとそんなに変わらない。

どうする?キープするか?とGaryさん。

吟香は基本的に飲食大好きだ。しかも、Garyさんに聞いても、この界隈で一番うまい魚は間違いなくキングらしい。
さらにさらに、レストレランに行っても、キングサーモンはメニューに載っていない。
それほど漁獲されるものではないのだ。

50cm以上のキングはキープした時点で釣りを終えないといけない。
もう、どちらにしてもそろそろ終了しないといけない時間だ。

やっぱり食うか。

そう決めてGaryさんに伝える。

スピットの港には、持ち込んだ魚を捌いてパウチしてくれる業者があって、そこで捌いてもらって、昨夜本当は行きたかったレストランなのだけれど、そこに持ち込めば料理してくれる、とのこと。

そう決めたら、Garyさんは手際よく、キングの頭を落とし、内臓を出しはじめた。



さてさて、
僕の方は吟香のロッドを受け取って、二匹目のドジョウならぬキングを狙う。



川がカーブしているあたりに投げて、水流に逆らって引き寄せる。
エサがくるくるまわり、ルアー的にサーモンを誘うのだ。
・・・これ、ルアーでも釣れそうだな。

Garyさんの時間はオーバするが、ちょっと延長料金払えばいいらしい。

しばらくして...

グゥンっとロッドがひったくられた。
ブゥン、とアワセたが、アワセが弱い。またやってしまった。

とりあえず乗ってはいる。

キングが手前に突っ込んでくる。慌ててリールをまいてテンションを保つ。ここは乗り切る。

次は水流を武器にして川下に走る。ロッドに重量感が伝わる。

じわっとテンション掛けながら寄せる。

...2分ほどはやり取りしただろうか...
小さく水面で頭を振った瞬間...

唐突に夢の時間は終わりを告げた。

アワセが小さかっただろう?とGaryさんのご指摘。はい、ごもっともです。


こうして、初めてのキングサーモン釣行は終わり、僕は夢のキングサーモンを釣り、吟香は2尾も釣り、すっかり虜になったようだ。

Garyさんが捌いて胴体だけになったキングをビニール袋に入れて僕が持つ。
吟香とGaryさんは楽しそうに話をしながら前を歩いている。草や灌木が多く、袋を当てると敗れそうなので、高く掲げて持ち上げる。
これが結構重い。胴体だけでも8.45ポンド。つまり4kg弱だが、釣竿も持っているし、背中に荷物も背負っていて、片手で持ち上げるしかないのでね。
で、楽しそうに立ち止まりながら歩いている。・・・もう、早く歩いてくれよなぁ。
まぁ、いいけどね。これもよい思い出になる。

なんというか、すでにとてつもない充実感。
まだ、アラスカに来て3日目だというのに...濃い。本当に濃い。時間の流れが緩やかだからなのか、本当に濃密で、このあとのプランを考えると、こんなにイベントだらけで大丈夫か?と思ってしまうくらいだ。


Garyさんとお別れ。
軽く抱擁するのはアメリカっぽい。
本当に自然が、アラスカが、釣りが大好きなおじいさんだった。
ありがとうございました。

途中のお店...例えば南紀などでも見かけるけれど、食料品も釣り道具も売っているタイプのお店だけれど、ここで氷を購入して、袋の中に入れて重量を増す。



ついでに冷たい炭酸ジュース、さらにアメリカっぽく色の激しいアイスを買う。
なんだかんだで結構暑かったんだよな~

そのままスピットを目指す。

相当眠いはずなのだけれど、まだアドレナリンが出ている。

ニニルチク川から1時間半ほど掛けてスピットへ到着。
Garyさんに教えてもらった漁港で魚の処理をしてくれる店を探す。

店の駐車場に車を停め、吟香が店で相談すると、店の奥の作業場に案内される。
ドアを潜ると冷気。
キチンと魚の鮮度を気にかけているあたり、ここは先進国だなぁ、と思ったりする。



作業をしているお兄さんに声をかけ、袋ごとキングを渡す。


下の白いものはキングサーモンの白子。料理してもらえないかな?と思ったのだが、さすがに無理だった。

ここでは、魚を三枚におろし、それを約500gごとに小分けにしてパウチにしてくれる。

アメリカだと、肉も魚もだいたいパウチに入って販売されていることが多いように思う。
これだと、肉や魚の汁が出たりして手や周りを汚すことがなく、とても取り扱いが楽だ。これもアメリカっぽい気がする。なんとなく。



釣った魚すら、現地で専門業者がおろして、パウチにして、あたかも工場で処理した製品のようにして家庭に帰ってくるわけだ。

・・・もっとも、ここに持ち込まれるものはおそらくメインがハリバット。メータ超えのヒラメなんて家ではとても捌けないので、まぁこれは助かるよなぁ、と素直に思った。




店内に貼ってあったカラー魚拓

処理に1時間ほどかかるとのことなので、その間に、このキングを料理してくれる可能性のあるGaryさんの紹介してくれたレストランへ向かう。
ここはリンダさんも勧めてくれていたCAPTAIN PATTIES FISHというレストラン。

前夜は混雑して入れなかったので、予約と合わせてキングの扱いを相談してみる。
すると、快く引き受けてくれた。

処理まで時間があるので、スピットを散策。
このスピットは、こういったレストラン、地域物産店やセレクトショップ、普通のお土産物屋、それと穏やかな内湾側に広がる港湾施設が細長い陸地の左右に並んでいる。


スピットの港



なかなか面白い店も多く、とはいえ移動疲れの2時起きにはなかなかきつい時間帯なので、ほどほどに過ごして、キングを引き取りに行く。


一旦ホテルに戻り、リンダさんを呼び出す。
キングの扱いを考えていた。結局、パウチに6袋。
生ものをもって移動するわけにもいかないし、日本に送るのもどうかと思うので(クール宅急便、あるのかな?)、リンダさんにあげようか、ということになった。

事務所に常駐している訳ではないリンダさんと吟香がインターフォン越しにやり取りすると、どうも大喜びらしい。
そう、キングは美味い(らしい)のだ。それにフレッシュなキングは釣りにでも行かない限り手に入らないのだろう。

出てて来たリンダさんに半身分をあげる。日本でチヌを隣近所に配ったとき、若干申し訳なさを感じたりもするのだけれど、キングは違う。というより、貰い手のリンダさんの反応がそんなことを感じさせない。
本当に喜んでいるのが手に取るように分かる。
よかった。

部屋に戻る。
ほぼプライベートガーデンとなっている部屋の前の屋根の影で素朴な椅子に腰を下ろす。
青々とした芝生、その先に広がる海と空。そして雪を被った連なる山々。そんな明るい世界。これがキーナイの印象だ。

前夜、キングサーモンスタンプを買った際に一緒に買っていたヨーグルトに2種類のベリーを投入し、コーヒーを飲みながらゆるやかな時間を過ごす。そしてウトウトと。風が心地よい。

一休みしてから再び...いや、この日は3度目のスピットへ。



レストランに入る。
予約確認をすると、ああ、魚があるのよね?的なことを言っているように思える(本当にどうしようもない語学力だ)。
キングを渡す。



今日も凄い混雑。予約あるにしても少し待たされ、海辺の席へ案内される。海が見えるのはいいのだけれど、掘っ立て小屋クラスに隙間風が吹き抜けていて、寒い。
上着を取りに車に戻る。

キングをどうするか?と聞かれるが、やはり日本のような多種多様な魚料理はこちらでは期待できない。
吟香は、「刺身はできないか?」と聞いているが、当然「No」。
グリルか、ベイクか、フライか。料理方法はこれだけ。

丁度3切れ(といっても一つが600g強あるが)あるので、3種類全部試してみることにする。


まずはオイスター。これは吟香の嗜好。
僕は何度か牡蠣でお腹をやられているので、海外では...まぁ一つは食べてみたけれど...


そしてサラダ。

さて、いよいよキングサーモンだ。お味は...



これ、吃驚。

今まで食べていたサーモンは一体なんだったんだ?と言いたくなるくらい、驚愕の美味さだ。
まずもって、驚くほど脂が載っていて、これがまたまったくしつこさや重さのない、とにかく上品な脂なのだ。
身は柔らかいがしっかりしていて、口に入れると甘さすら感じる脂がじわっと口に広がり、サーモン特有の風味なのだけれど、それをとても上品にしたような香りが口に広がる。
噛みしめるほど旨味が出る。
しかし、ある程度の歯ごたえがありながら、口の中にとろけていく。

グリルが最高。
しかし、若干マヨネーズなどで味付けされたベイクも決して悪くない。
思った以上に美味しかったのがフライ。旨味が閉じ込められていて、そしてとても柔らかい。

二人でキングを...おそらく1.8kgくらいは食べたのだけれど、まったく多く感じなかった。

ああ、本当にうまい。
キングサーモンの漁獲期にこうやってアラスカやカナダに来ないと食べられないというのが、とても辛い。また食べたい。


そうして、長い一日が終わってゆく。
まだ、日は...高い。


明日はキーナイ半島第2弾イベントが待っている。・・・そう、クジラがきっと僕らを待っている。
そのためには明日も早起き、そして朝から2時間半のドライブだ。

もう...寝よう。


to be continued...